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東京家庭裁判所 昭和50年(少)5575号 決定

少年 G・T(昭三五・三・一生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

昭和五〇年五月一六日付警視庁野方警察署長作成の少年事件送致書記載の審判に付すべき事由と同一であるからこれを引用する。

(法令の適用)

少年法三条一項三号イ、ロ、ニ

(主文記載の保護処分に付すべき事由)

(1)  少年は小学校二年生のころから自分の欲求が満たされないようなことがあるとその不満を暴力という形で弟や妹に向けるようになり、その程度も次第にエスカレートしていつて、中学校に入学したころからは当時小学校五年生になつたばかりの弟は家にいたたまれず単身アパートで寝起きをせざるを得ない状態となつていた。

又、少年が体力的に両親に対抗できるようになるにつれ両親に対しても自分の要求が満たされないと暴力を振う様になり、中学校三年生になると学校の教師に反抗して授業の邪魔をするようになつたばかりか秋の修学旅行に参加した後からは煙草やマージヤンを覚え、さらにこの頃家が狭く少年の勉強部屋がとれないという理由で弟と交替してアパートで寝起きをするようになつたこともあつて次第に怠学をするようになり、怠学してはアパートの自室で友人達と遊びアパートに出入りする人数も増加していつた。一方、少年のこうした生活態度を心配していろいろ注意をする両親が入室することも拒否する様になつていつた。

昭和五〇年四月少年は私立○○高校に入学したが一〇日程通学しただけであとはアパートで遊び暮らし、金に窮しては家に金をせびりに行き、断わられると物を壊わしたり暴力を振つたり大暴れをするという状態が続いたため本件虞犯事件が立件されるに至つた。

(2)  しかしながら、本件が家庭裁判所に係属した後も少年は自分の生活を改めようとはせず、調査官との面接の際にも「親は大嫌いだ。顔も見たくない。縁を切りたい。顔を見るとむかむかする。こつちがおとなしくしているといい気になつてうるさいので殴る。殴るとすつきりする。」等と述べていた。そして、昭和五〇年六月二三日の夜には家に小遣銭をせびりに行き断わられるや腹をたて父親を殴り、電話器を壊すなどの暴行を加えたため警察に保護される結果となつた。

(3)  少年のこうした問題行動の原因としては遺伝的なものの他少年が第一子であつたこともあつて幼少時より両親に甘やかされて育てられ物質面ではダダをこねれば自分の欲求を満たしてもらえるという状態であつたということなどから形成されたと思われるわがままで幼稚な自己中心的な性格、普段は無口な父親から時として感情的に暴力を振われたことなどから影響されたものと考えられる暴力にたよろうとする傾向、少年のしつけについて一貫性がなかつたことからする情緒的安定の欠如等が一応考えられる。

(4)  以上のような少年の性格を矯正し、少年のようなわがままが社会には通用しないことを解らせるとともに、欲求不満耐性、情緒面の統制力を身につけさせる為には、少年に対する継続的な指導教育が必要であるところ、今回東京少年鑑別所に入所してこれまでの自分の行動について冷静に反省することが出来たとはいえ、そのことによつて長年に亘る少年と両親及び弟妹との葛藤が一挙に解決されるものではなく、又両親も少年の教育観護に自信を失つていることから前記目的を社会内処遇によつて達成しようとすることは極めて困難であるといわねばならず、この際少年を両親の元から引きはなし初等少年院に送致することが少年の健全な育成をはかる為にも又少年自身の将来にとつてもプラスになるものと思料する(但し、少年は高校に進学することを熱望しており、来春受験の機会を失すると再来年弟と一緒に高校受験をすることとなり少年のプライドを大きく傷つけ、結果的にも良い結果は予想できないので短期を相当とする)。

よつて、少年法二四条一項三号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 川島貴志郎)

参考

昭和五〇年五月一六日付警視庁野方警察署長作成の少年事件送致書記載の審判に付すべき事由

少年は、私立○○高校に在学中のものであるが昨年九月こるから遊びぐせがつき、学校には殆んど通学せず常習怠学の状態である。少年は新宿区内に家族と同居していたが放縦的性格から昨年一〇月ころから家族との同居を嫌い実父所有の練馬区内のアパーートに単独居住して以後中学時代や高校で知り会つたいわゆる不良少年の溜り場に提供し最近では保護観察中の少年や家出中の少年を誘い込んで泊りこませ、喫煙、エロ雑誌等を読みふけるなど乱れた生活を続けておりまた両親に反抗して自宅に放火したり、中学校の警備員を殴打する等の暴行行為を繰り返している。このまま放置すると両親の監護不徹底をよいことに将来、暴力行為、薬物乱用、窃盗等の罪を犯すおそれがある。

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